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上村愛子の不遇なモーグル人生【後編】

【前編】からの続き・・!

ここからは難しい話になるが、自分も気に入らない
板をスライドしながら接雪時間を長くする姑息な
【スライドターン】を使う欧米選手と違って、
上村選手はスキーのエッジで確実に雪面をとらえる
【カービングターン】の技術を貫き通した・・。

でも、女子のターンといえど、技術が進化すれば
嫌でもやがて男子のターンへ近づくに決まっている
訳で、いつまでもスキーを横に滑らせごまかした
滑りで、速度が遅いままの【スライドターン】全盛
のままのはずが無い・・。
いずれは必ず現在の男子のような滑りになる・・。
そう考えると、今、男子で【スライドターン】など
使っている選手は皆無ですから、事情はともあれ、
本当は上村選手の【カービングターン】は最大評価
をされないとおかしいのだ・・。

その想いは上村選手と一緒で間違っていない・・。
でも、前編で書いた通り、審査というのは審判が
気に入るか?気に入らないか?実はココだけの
判断なのである・・。
繰り返しになるが、なぜなら、このターンが完璧
とか、ここからこの角度で入り、出る時はこの角度
で、スキーの描く弧はこの半径○○のアールで
作られたターンが満点!とかいう基準が無いからだ・・。

そこを譲らず妥協せず、

【自分の目指し築き上げた美しいと思う滑り】

を貫き通し、オリンピックの審判の判定に負けた
上村選手・・。

でも、個人的には本当に素晴らしいと思うんだ。
それは自分も今や女子では世界No.1のターンを
するのは上村選手だと思うし、こうしたルールは
さておき、本当に上手なターンをする女子選手は
誰だ?と聞いたら、スキーを知っている人間は
恐らく上村選手だと答える事がわかるからだ・・。

過去に戻るが、2002年には今まで左右の方向への
【エア技】しかダメだったのが、前後の方向が解禁
され、文字通り前後左右の

【3Dエア】

が解禁される。モーグルの採点は

【エア】25%、【ターン】50%、【スピード】25%

なので、日本代表チームは、所詮、【エア】はどんなに
がんばっても25%・・ならば【ターン】&【スピード】
の75%で十分カバーでき、従来の【エア技】で失敗
しなければ、きちんと得点がつくはず!という方向性
で進む事となる・・。

しかし、蓋を開けてみると、他国の選手は予想以上に

【3Dエア】

で望んできたというよりも完成させてきた・・。

すると、配点のパーセンテージは変わっていない
はずなのに、

【エア】50%、【ターン】25%、【スピード】25%

みたいな【エア】重視の配点になりがちの状況に採点の
ベクトルが変わってしまった・・そこで、上村選手は
【3Dエア技】習得へ出遅れた形で挑戦しなければ
ならなくなった・・ここでもルールに泣かされた・・。

しかし、ここでも、上村選手は自分を貫く・・。
トリノオリンピック前後の当時の日本代表テクニカル・
コーチのドミニク・ゴーチェ氏は、女子選手でも比較的
マスターしやすく、飛んで着地した時にスタートと
同じ姿勢に戻れて、すぐさま【ターン】を開始できる

【バックフリップ(後ろへ1回転する)】

を上村選手に薦める・・しかし最初に書いたように、
上村選手は自他共に認める【小心者】・・(笑)

【後ろに倒れる感覚が、一瞬コースが見えなくなるのが怖い】

という事で、それを頑なに拒み、トリノオリンピックで
見せた、ドリルのように回転し、視線は常にコースから
外れない

【コークスクリュー720(ドリルのように3回転する)】

に挑戦する事になる・・。
しかし、着地が斜めになる
ため難しいこの技、【ターン】の
練習量を減らして
マスターする事になってしまったそうだ。

日本代表の【3Dエア技】への取り組みの遅れ、
採点方法の
あやふやさ、エアの過渡期、小心者の
マイナス面が重なり、
持ち前の【ターン】の練習量
までもが減る形になった・・
という悪循環だった時代
が2006年トリノオリンピックの時・・。

「いったいどうしたらメダルが取れるんだろうというのが、
 ナゾですね」

と話していたが、【アイアンクロス・バックフリップ】
をやる事を決断すると、【スライドターン】は減点で
【カービングターン】が評価されていた2009年は、
上村選手の全盛の時となり、日本人で初めて
世界選手権において、

【モーグル優勝(種目別年間王者)】

という快挙を達成する・・。

しかし、2010年のバンクーバーの時から、今度は、
どちらかというと、コブからコブに飛ぶ形である
【カービングターン】が評価されなくなり、接雪を
しっかりとする【スライドターン】が減点されなく
なる時代が来る・・。

急に上村選手の滑りが評価されなくなったのである。

そして、今回の2014年ソチオリンピックでは先に
書いた通りである・・。
そうした意味では、上村選手は本当に審判に嫌われ、
ルール改正に泣かされた、

【不遇なモーグル人生】

だったが、自分の【美】を突き通した素晴らしい
選手だった事は本当にありがとうと言いたい・・。

上村選手・・お疲れさまでした・・。