| 「書けない理由」 |
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| 住宅街はシンと静まりかえり、足音だけが鳴り響く。坂をおり、川にそっと寄り添う駅に向かう。終電はとうに終わっている。線路の中央をまたいで進行方向を見る。ホームも薄暗く、沈んでいた。線路脇には交番があるが気配はない。意味のない巡回にでもいったのだろう。あの不審者への質問ほど意味のないものはないと思っている。あれで自転車の盗難を防いでいるつもりなのだろうか?大体、深夜自転車に無灯火で乗っているだけで何がおかしいのだろう?盗難車なら人目につかないように点灯しないということだろうが実際、自分の物であっても点灯するのはおっくうだ。ペダルの抵抗は増すし、もともと危険なほどスピードも出ないのだから、無灯火でも問題はない。照度もたかがしれているから、曲がり角の危険に気付くのはダイナモなどの奏でる音のほうだろう・・・。いかんいかん、こんな深夜に線路をまたいで、マッポの悪口を考えていると、つかまらないとも限らない。大体、人の勘というものはこれで結構鋭いものだと思っている。 ちょっとずれると、川面が街灯に反射した。都会の河川は例外なく改修されていて、大抵地面より下に深く掘り下げられている。直線的な流れと周りの住宅街、昼間は見栄えのするものではないのだが、夜、高い位置から少し遠めに見ると、ナナメに差し込む壁際が妙に暗く、水面のキラキラと対照的だ。懐からピースを出し、一本くわえる。紫煙が明かりに少し反射して、すぐ暗闇に吸い込まれていった。 ちょっとした舞台だな。深夜、住宅街を流れる掘割を眺めながらタバコをくゆらせる一人の男、スポットライトは男とも川ともつかないところに注がれている。冴えない場面だ、間違いなく通りかかった人は係わり合いになることを避けて、足早に通り過ぎることだろう。 自嘲ぎみにタバコを投げ捨て、跨線橋に向かった。 |
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作:shun | |