「後味の悪い一日」

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 人間性をためされた一日だった。
朝の通勤電車を望んで乗る人はいないと思う。特にこの時期、駅まで駆けてくると最悪。止まったとたんに流れ出る汗、握り締めたハンカチはあっと言う間に原型をなくす。それも周りを人で敷き詰められた状態で片手に荷物、残った片手をしきりに動かすのは見た目にもいいものじゃない。幸か不幸か乗っている時間は10分程度なので本でも読んで気をまぎらわそうという感じではないし、前後左右に振られていいかげんうんざりしたところでようやく駅に到着だ。ドアが開いた瞬間に人が殺到するのは、みんながみんな時間に追われているワケじゃないと思う。
 最近の駅はバリアフリー化が進んでいる。階段に併設してエスカレーター、少し離れてエレベーターがあるところもある。私は階段派だ。エスカレーターは幅が狭いし、なんか流行に乗ったような気恥ずかしさがある。階段の上り下りは満員電車からはじかれたように飛び出した気分にはピッタリだ。だってそのままダラダラと階段を上ったり、エスカレーターで手すりに手をかけているようでは・・・・会社なんぞに行く気にはならないではないか?そのまま改札を抜け、階段を今度はフォームへ下りる・・・・となるハズだった。階段の上に子連れの若い女性がいた。それも子供の一人はベビーカーにのっかっていた。この混雑時に何考えているんだろう・・・とぼんやり考えたまま、横をぬけて階段を降りはじめたが足取りは急激に遅くなり、降りきったところではもう止まってしまった。私を残して周りだけの時間が進んでいるようだ。
 いったい自分は何をしているのだろう・・・彼女は困っているに違いないじゃないか。振り返っても見えるには人波だけ、その中に彼女らはいない。しかし、そこにベビーカーを抱え込んだ初老の婦人が降りてきた。とたんにクルリと向き直るとその方向は見ないようにした。別に誰はばかることはないのだけれど、自分自身に対して恥ずかしかったのだ。そしてそれを増長するような対象は見たくなかったのだ。その後の会社への道のりは遠かった。
 こんな今日は上司にまでたてつくような気分の悪さだ。こんな日は早く帰るに限る、そう思って定時を過ぎてすぐに退社した。少し涼しげな陽気の中を気持ちよく走るように駅へと向かう。駅構内に入ると広いフロアに並ぶ券売機の前に車椅子を見つけた。もちろんこんな時間はやはり人の波だ。容易に券売機の前にも近寄れない、いやそもそも券売機のボタンまで手が届くのか?・・・・あぁ、近づいていって丁寧に「どちらまでですか」
びっくりしたように彼女は振り返る・・・ハズだったのに、私は10mも離れたところで構内のビラなんぞを見ていたんだ。少したって振り返ると誰かが彼女の前にかがみこんでお金を受け取っていた。またしても、またしてもだ。
(Page.2へ続く)

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