「追憶-4」

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「そんなところで何しているの?」
ツーピースのパジャマにつっかけ姿が門のなかにあった。朝もやに包み込まれているのかそれとも疲れから自分の眼がかすんでいるのかわからないが、その輪郭はぼやけて現実感が薄れていた。彼女は大きな眼によくあった長いまつげをゆっくりと伏せて、軽くドアに寄りかかった。門に歩み寄った彼は眼の下にうっすらと流れる影をちらりと見た。
「おれ聞いちゃったんだ、夜中に親が話していてさ・・・それで・・・・」
「それで・・・、それで急いでみんなで車で来たってわけ。自分のことは自分で処理できるっていったのにまったく・・・、ね、誰の差し金? おねえさん? それともおにいさん?」
「・・・そうじゃないよ」
「・・・」
「そうじゃない、ここにおれがいるってのは誰も知らない。だって昨日の夜聞いて一人抜け出してきたんだから」
「・・・ん〜っ、そう。でもそんな時間によく電車があったわね。お金だって結構かかったでしょう」
彼は黙って壁に立てかけてある自転車を見やった。
彼女はそちらに視線を向けて小さくしかし強めに息を吸い込んで近づいた。
「・・・無茶しないでよ、ケガなんてしてないでしょうね。おねえさんに私が怒られるじゃないの」
口調も内容も厳しいものだったが、そのまなざしはやさしくやや眩しげに彼に向けられていた。
「馬鹿よ、そんなに急がなくても朝一の電車なら3時間と違わないでしょ」
「・・・でも、そうしなくちゃいけないような気がしたんだ。何かが手遅れになるような、でもそれで何ができるかまったくわからなかったんだけど・・・」
「それで、今は何をすればいいかわかったの?」
「・・・」
無言のまま、彼はそこにただただ立ち尽くしていた。その姿は夜通しかけたせいで汗にまみれ車の巻き上げるほこりに薄汚れていた。その眼も疲労の色は隠せなかったけれど、それを感じさせない澄んだ色合いに輝いていた。
彼女はそのまなざしを一瞬見たあと、咀嚼するようにゆっくりまぶたを閉じ、しばらくするとしっかりと見開き今度はまなざしを受け止めた。
(Page.2へ続く)

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