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「N川だ!」
ここまでくると目的地まであと10km程度とわかり、安堵した。しかし時間はない、夏の朝はせっかちで朝と夜のあいまいな時間をまどろむことはないのだ。そして約40分後、ようやく彼は目的としていた家の前に立ったのだった。
その家はかつて自分が知っていた家と外見は何も変わってはいなかった。二階建ての日本家屋で家の中では、壁にたてかけた振り子時計が1時間おきにくぐもった声をあげているに違いない。歩いてすぐのところにあった公園もそのままだが、あの日より縮んだような気がする。あの日は慕っていた彼女の兄が不在で高校生の彼女とこの公園でたたずんでいた。たぶんお互いに相手の取り扱いに困っていたのだろう、彼女は少し離れたところで遊びたくもないブランコや鉄棒にとりくんでいる自分を眺めていたっけ。少しは話をしたような気もするがまったく覚えていない・・・、そんなとりとめもないことを思い出しながら朝の静寂をさえぎるドアの開閉音に、彼は半ば呆けた状態のままふりかえったのだった。
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