| 「追憶-1」 |
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| 少年は自分の寝室に戻って布団をかぶりなおし、今聞いた話をもう一度思い出してみた。話から考えて今年の春から東京の短大に進学している美由紀姉ちゃんにまちがいない。東京に来ている親戚の人は他にいないし。で美由紀姉ちゃんは田舎に帰っているらしい。そして・・・。少年は聞き逃してはいなかった。子どもができた、美由紀姉ちゃんに。結婚していないのに子供ができるということがどういうことを意味しているかは少年にはわからなかった。しかし、子供がいるということは近い将来、結婚するのにちがいない。そう考えて少年は暗い気持ちになった。 お姉ちゃんが遠いところにいって名前もかわって、自分より大事なものができてしまう。布団を払いのけて小さな豆電球に見入る。いつもは豆電球がついていないと不安になって眠れないのと、それをずーっと見続けて気分がぼんやりしてきてとても息苦しくなることがあり、処置に困るこのなのだが、今は自分の心の中にあるもやもやをはらいのける光でもあるかのように凝視していた。考えても考えても何も浮かびはしなかった。自分ができること、しなければならないこと、少なくても今の自分の気持ちを紛らわすことはでてこない。彼は本棚からロードマップを引っ張り出した。家で新しい地図を買ったので、捨てられるところを懇願してもらったものだ。ちょうど田舎のあるページを開いてみた。豆電球を遮る黒い影が地図の上にハッキリと落ちて見えた。この地図では国道に平行して作られている高速道路は点線でしか示してなく、いつも国道を早くて4時間、遅ければ6時間もかかって田舎に行っていたことをぼんやりと思い出した。「6時間って大体20km/hの速さで進んでいたってことか?ずいぶん遅いな」車は手の届かないところにあるが、20km/hの速さは手のとどくところにある。自転車なら簡単にでる速さだし、事実35km/hまでは坂道で体験していた。 地図の中の世界が急に身近に感じられ、胸がドキドキしてきた。心の中にいる美由紀お姉ちゃんが手の届くところにいて手招きしていた。いける、行ってやる、今がその時だ。少年はクローゼットの中から着替えをあさり始めた。 |
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作:shun
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