「追憶-1」

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 ずいぶんと時間がたった気分がしていたが、実際にはまだ1時間もたってはいなかった。最初の大きな分岐にあたる交差点までも進んでいない。「さぁ、ここで引き返せば何事もなくいつもの朝を迎えられるぞ」弱気の虫がささやいて、道路沿いの常夜灯がにじんで見えた。「だめだ」少年は小さく口に出して、その勢いでもう一度自転車にまたがった。目標はまだまだ遠く、目安となる道路標示すらみえないままだった。
 すべてのとっかかりはその夜遅く両親の会話をきいてしまったことだった。
「・・・なんでもバイト先で知り合ったっていうのよ。大体、私はもともとバイトには反対だったわ。右も左もわからない東京にでてきたうぶな娘がどうなるかってわかりそうなものじゃない?」
「まぁ、そういったものでもないだろう。あの娘は年齢の割りにはしっかりしているし、バイトだって遊ぶ金欲しさにしたわけでもないのだろう」
「だからよ、そういうしっかりした娘なのに、そして不慣れな東京生活をサポートする立場の私たちがいるのにこの体たらくはないでしょう?バイトしました、男の人と付き合いました、子供ができましたじゃ、おばさんに顔向けできないじゃない」
「・・・それはさておいて今日帰ったのかい?」
「ええ、そりゃおばさんに話さないことにはしょうがないでしょ。でもねぇ、本当は私ついていけばよかったなって思うのよ。従妹なんだし、特に末っ子の一人娘だから本当の妹みたいなものなのよ。あぁ、明日の朝一番に行こうかしら?」
「やめておいたほうがいいよ。余計こじれそうだし・・・」
「なによ、そんなことないわ、でも今ごろどうなっているのかしら・・・」
(Page.2へ続く)

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