| 「失われしもの」 |
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| M君の事故時の心境についてはその後何度となく考えた。一体どんなことを思ったのだろうか、痛みは感じたのであろうか・・・、そんなことを考えて夜中に突然目が覚めることもしばしばあった。自分に置き換えるとその恐ろしさはさらに倍増した。一番恐ろしかったのは自分の意識・体がなくなり、何も感じなくなってしまうということであった。人は、いやすべての生き物は必ず死ぬ。そのことは頭の中ではわかっているのだが、心の最も奥まったところにある感情がそのことを受け入れられないのだ。考えてみれば、自分という存在を自覚したのはいつのことだったのか?知らないうちに自覚が現れ、そしていつか自覚はなくなっていく。すべては偶然であったのかもしれないが、一度手にしてしまったものを永遠に失ってしまうのはたまらなく恐ろしい。そう考えると時間がたつのが恐ろしくなってくる。今こうしている自分はすぐに過去の自分だ。そしてそのときの自分には絶対に戻れない。「時間よ止まれ」とは幾度となく言ったことだろう。しかし、時間が止まればその状態は保たれるが、同時に自分の思考すら止まってしまうのだ。これは死とどれほど違うというのだ?・・・・こうして論理の堂々めぐりに疲れ果てて、その後に悟る。すべては時間とともに流れていく。それから逃れられるものは何もなく、変化しないものはない。そういう意味ですべてのものは平等であると・・・。そしてそんな後にはすべてのものが美しく、いとおしく感じられ、世界と一体となったような気分になる。多分そのときの自分は限りなく透明な笑い顔になっているのだと信じて疑わない。 先週だったか、M君の家の前を通ると家が取り壊れているところだった。どうやら、新築するらしい。だが、自分の心の中のM君はそのままだ。そしてその度ごとに自分も生まれ変わったような気分になるが、自分は知っている。またあのことを考えるときが来るのだ、それもそう遠いことではないだろう。 |
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作:shun
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