記事一覧

時効の壁

*************************
 1978年に東京都足立区立小の女性教諭・石川千佳子さん(当時29歳)を殺害して自宅の床下に埋め、殺人罪の時効成立後の2004年に犯行を自白した同小学校の元警備員の男(70)らに、遺族3人が約1億8600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が26日、東京地裁であった。
永野厚郎裁判長は、男が遺体を隠し続けた行為について、 「遺族が故人を弔う機会を奪い、故人に対する敬愛・追慕の情を 著しく侵害した」と述べ、男に計330万円の賠償を命じた。
 一方、殺害行為については、民法上の「時効」が経過しているとして、賠償責任は認めなかった。
*************************
この「時効」というもの・・犯人のための法律と言われがちだが、
法学的には、次の二つの説が中心のようです。まずは、

1)時間の経過とともに処罰の必要性がなくなるという説(実体法説)
2)時間がたつと証拠が散逸し、公正な裁判が難しくなるという説
 (訴訟法説)

まず(1)については、

【時効になるまで逃げまわった犯人は十分罰を受けたはずである】
【もう、事件の社会的影響は小さくなっている】

などという考え方ですね。確かに、事件が風化し、犯人を捜査する
意味あいが、どんどん薄くなっていくという「現実」は、もちろん
どうしようもない。しかし、今回の事件のように

「犯人に同情する必要なんかない!」
「遺族の悲しみは続くんだ!」

という「感情論」の反発が出てくる。
で、(2)については、文面通りなのですが、簡単に書くと、
ある時、100%無実である自分に対して、警察がやって
きまして、

「実は20年前の殺人事件の容疑がかかっている。」

といきなり殺人容疑がかかったとしましょう。でも自分は
殺人など100%やっていない。
ではこの時に、20年前の特定された日の

【アリバイを自分はどうやって証明すればよいのか?】

そして、

【どうやってその事件には関係ないと証明すればよいのか?】

さあ、どうだろう?自分の20年前の特定日をどれだけ
の人が細かく覚えていますか?覚えていたとしても

「それを裏付ける証拠は?」

となった時に、それらが実現できないという事だ。

さらには上記の2つと共に、殺人事件の時効を廃止して、
過去のすべての事件を警察が真面目に追いかけると
すると、今よりもはるかに多い事件数になると予測される。
その上、昔の事件は当然だが解決率も年々下がる。
今回は名乗り出たからわかったが、通常は、何十年も
前の解決する可能性がかなり低い事件を追う人員を
割くよりは、最近起きた解決の可能性がある事件を
追ったほうが効率的であるとも言える。
その辺の「警察の都合」も見え隠れしているように思う。

確かに、被害者の家族の悲しみに時効はない。
そして、今回の事件の被害者の弟さんがおっしゃるように

「法は、犯罪者の逃げ得を勧めている」

と、自分も被害者の親なら確実にそう思う。
だから、個人的感情論では、今回の事件は例外で
あっても犯人がわかった以上は、許すべきではなく、
時効など無視すれば良いと思うが、日本が法治国家
である以上、この「時効の壁」は仕方がないだろう・・。
これを機に、今後「逃げ得の許されない」法改正が
望まれるかもしれないが、上記の時効の考え方を
ふまえ、全体にかかる負担の事を考えてみると、
素直には賛同できず、「う〜ん」と考え込んでしまう
のである・・。
しかし、この事件の70才の犯人、遺族への謝罪も
未だ無く、

「この事件は時効という事で決着はついている」

という権利を振りかざす姿には悪いが感情的に
なっちゃうよなぁ・・。