「walker(step2)」

 人気のないバス亭で、ベンチが"おいで、おいで"といっている。昼間見ればホコリを被った白っぽい、それだけに余計に薄汚れて見えるベンチでも、本当に疲れ果てれば座り込んでしまい、二度と立ち上がりたくない気分になるのだろう。アップテンポの曲と歩き始めの高揚感のままに、緩やかな丘陵部を抜ける。いいペースだ。やがてT字路に辿りついた。ここまでは知っている道なので問題ないのだが、この先は実はよく知らない。いやぁ、まったく知らないわけではないのだが、バイクではどこで曲がると最短ルートになるのか分からず、時間をかけられない状況、行き過ぎてもとりかえせるバイクという道具、結局行き過ぎてしまい、この辺の大動脈である国道にでてしまうのだ。それでは味気ない、今回はそんなことのないよう地形図まで持ってきているのだ。
 事前には多分10〜15分も歩けば予定の曲がり角であろうと考えていた。ところが、歩けど歩けど目的の交差点はやってこない。微妙にくねる道と、ダラダラと続く登坂が、余計徒労感をつのらせる。
 「まさか、間違えたのでは?いや、そんなわけはない。だが、実際にめぼしい交差点はないではないか!」
 「だけど、この辺は開発の激しい地域だ、さっきから何駅目にしている?前にお前が通ったのはもう1年近い前だぞ、ほれ、ひょっとしたらさっきのなんでもない交差点、標識もないもなかったがアレがそうではなかったのか・・・・」
 そろそろ日付も変わろうという真夜中、初めて歩く坂道、先の見えない不安、これらが"ないまぜ"となって疲労していたのだろう、ようやく目的の交差点にたどり着いたとき、足はじんわりと痺れ、目標時間を遥かに越えて、しかも先は急坂を示していた。少し前、200m程度だが誰か歩いている。こうしてこんな時間に歩いている人もいるんだ、ここで休んでは逆にマズイのではないか、よっしゃ、あの人を目標に一気に上って、どうせいずれは国道だ、やっつけてしまえ!
 気持ちだけは勇ましく、でも自転車ならかなり苦労するであろう坂は、徒歩でもやっぱりペースは上がらず、前のオバハンをあっさり抜きはしたものの、闇雲に足を運ぶのみであった。よく考えたらこのあたり標高90mはあるのだ、確かにルート上の距離は低減できているのだろうけれど、疲労を考えたらあんまり得策ではないな・・・。
 実のところ、国道でも結構な大きな坂のアップダウンがあり、またバイパスそのものが国道表示されており、実際の歩ける国道が併設されているとは限らないのだ。ひょっとしたら、大きく迂回しなければならないかもしれない。・・・これはうれしいことに杞憂に終わった。意外なぐらい、高架下の階段を上れば、あっさりとほとんどロスなく国道はトレースできたのだ。つまり、自動車専用区間の路上からでは見えないところに歩行路は確保されていたわけだ。人気はなく、けれど国道を走る車の群れは途切れることなく続き、いい加減うんざりしてきた。
 先にわかれた先輩から、電話がかかってきたのはそんな最中である。
「もしもし、なに マジでやってんの?」
「もちろんマジっすよ ようやく国道に出たとこです」
「なんだよ〜てっきりもう県境を越えたところかと思ったよ・・・」
「・・・・いい気なもんだよな」
と電話を切って考えたが、自分で言い出して自分の意思でやっていることだ。何も彼の悪いことはない、これを糧に前に進むのみである。
周辺から見ても、かなり高い所を歩いているにも関わらず、設置された防音壁のために、視界はさほど良くない。上着は片手にかかえるように持っていたが、ファブリーズくらいじゃ、なんともならないニオイになっているんだろうな、脱いだにはすでに汗をかなり吸った後だから。
 ようやく県境、つまりT川に着いたのがPM2:00である。これで半分以上はクリアしたわけだが、橋のたもとにある商店街は人通りなく、たまに通る人もほとんどがよっぱらいである。からまれたら、どうにもガマンならなくなる気がして、足早に通り抜ける。この後は都会の大動脈である環状線を北上し、途中で最短ルートとなる水道道路を通る予定だ。車なら直進困難で、何度も迂回しなければならないルートだが、徒歩なので無関係である。
 ほぼ1時間で目的の水道道路である。途中さすがにノドの乾きに耐えられず、自販機で購入したコーラのペットボトルを持ってさらに進む。カラダは異常に飲みたがっているのだが、炭酸がきつくて一気にはムリである。しかたなく、歩きながら少しずつ飲むことにした。コーラにしたのは理由があった。かなり体力消耗していると考えたので、少しでもエネルギーになるものと考え、さらに夜中に歩いていることから少し眠気もあったので、炭酸の刺激で目を覚まそうとしたのである。もくろみは当ったようであるが、土地勘があるせいか、「あと15kmくらいはあるよな」と余計なことまでわかってしまい、疲れを感じてしまう。少し行くと、新聞配達人のあんちゃんたちがいる。ということは、朝が近いということだ。実際にはAM3:30といったところだが、早くしなければ、いや早く終わりたい、シャワー浴びたい、寝たいと頭の中はそんな感じである。
 結局、帰宅したのはAM4:50で、バッチリ朝日は昇っており、その光に照らされガックリ疲れた。夜のうちについていれば、もうちょっと達成感とその後眠るのもいい気持ちだったんだろうが、フロあがりの朝日は目にきつく、やっかいなことに眠気はかなりそがれていた。おまけに家人が起き出す時間も迫っていたことから、手早く眠る準備をしたものだ。最後までドタバタである、やれやれだ。

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作:shun

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