| 「ツーリングレポ(生しらす編)」 |
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| きっかけは何だったかわからない。PM8:00以降の職場なんかいいかげんなものだ。一心不乱にキーボードに向かっている者もいるが、それだって実際にはネットサーフィンに講じていることだってしばしばだから。実際、一応締め切りの近づいた報告書をまとめることに集中し、半ば生返事をしていたのだが、生しらすがウマイ!ということで、話はいつの間にか盛り上がっていた。 「生しらすって食べたことありますか」 「いや〜ないね A湾かS湾でとれるんだろう?桜海老ならきいたような気もするけど・・・」 「江ノ島に生しらす丼を出す店があるらしいんですよ」 「江ノ島ねぇ ほんとにオイシイのかな」 どうも自分が乗り気でないのが伝わったのか、またキーボードを叩く音が響きわたっていった。 「ん〜、このデータじゃ液状化はしないんだろうな・・・」 「この間、食べたいって言っていたのなんでしたっけ?」 「いやね、今扱っているデータがK川のなんだが、すっごい湧水しててメチャメチャきれいなんだよ この川ならさぞかし旨いウナギがいるんだろうなってね・・・」 「K川って静岡でしょう? N市でも生しらす食えるらしいですよ」 「そう、国道1号の近くでね・・・って??生しらすぅ???」 「うまそーじゃないですか?あ、この間話題になったO崎の砂嘴も近いですよ」 「あの淡水の池があるやつか?ん〜っ、でいつ行く? 今週末はどうよ?」 「は? あ〜っ、今週は・・・っと土曜日ならいいっすよ」 「土曜日ね、んじゃ、生しらすの店の情報よろしく頼むよ」 「・・・はぁ、わかりました」 **************************************** 「一応調べてみたんだけど、店の情報はあんまりないです。やっぱ漁港に行ってテキトーに調べるしかないんじゃないかな?」 「うん、オレも調べてみた これが漁港付近の地図 この有名店が一人勝ちしているみたいだが、こっちのほうがウマイと思う。それにせっかくの漁港なんだから、ひやかしてみればもっといい店が見つかるかもしれない」 「季節はどうですか」 「春と秋がいいらしいんだが、どーも8〜9月の記事はあるのに10月はないんだよな ま、桜海老がこの時期いいらしい」 「桜海老いいっすね〜」 「だろ、生しらすがダメならこいつがあるよ」 「ところで今度は出の日じゃありませんでしたっけ?」 「んなもん、なんとかするよ でどーする AサービスエリアにAM10:00でどうだ?」 **************************************** バイクに乗るのも久しぶりだ。とりわけ高速ときたら、5月以来使っていない。料金所のわずらわしさから解放されるETCが待ち遠しい。車体にゴテゴテ付けるのは、いやだが便利さには代えられない。 「お疲れさまです」 「うぃ〜す 遅れてわりい 思ったより距離あったな」 「そうっすね 最後の20kmぐらいが寒かったっす」 革ジャンに裾の広がったデニムのズボンといういでたちだったが、オフ風バイクにはちょっと似合わない。こっちもメットはジェットだし、ごついオフブーツなんぞないので似たようなものだが・・・。 「そうか?この時期だから、ズボンは2重ばきだろ それで寒いのかよ?」 「いや、こいつチャックがバカになっていて、閉まんないすよ」 ・・・アホだ。こいつは雨が降りそうな時に、防水性のないヤッケを着込んで「寒い」と連発していたが、ちっとも学んでいない。それともファッションのほうが大事なのか? 「・・・とにかく行こうぜ これからならたぶん11:30には漁港に着く 楽しみだな」 **************************************** 市内はけっこう込んでいた。土地勘はほとんどないが、相棒よりはましなので先行した。11:30にはバイクを止めて漁港行脚を始めていた。やはり、人気店はすでに行列ができている。ハナから行く気はないのでどーでもよかったが、もしここにしか「生しらす」がなかったらどうしようとは思った。 「おい とりあえず他の店見てこよう 確か3軒くらいはあったよな?」 しかし、物産店にはすでに釜揚げされたものか、冷凍ものしかなかった。あるHPに書いてあった「生しらす」をパックでしこたま買い込んで、豪快にアツアツご飯の上に載せ、さらにショウガをこんもり盛り立てて醤油をたらすという壮大な計画はあっけなく頓挫した。 「こうなりゃ、どっかの店に入って食うしかねぇな しかし丼なんてあるのかねぇ?」 テキトーな物産店で店員に聞くと、意外にも今の時期でも食えるらしい。一瞬、冷凍ものを解凍しているんじゃないかとも思ったが、この際だ。 「で、その先の○○寿司でも丼やっていますよ」 「どうもありがとう」 なかなかかわいい姉ちゃんだなと思いながら店に行ってみると、オバちゃんは、確かに平日は丼をやっているんだが土日祝日はないとのこと、でも小鉢で注文もできるということだ。時間も時間だ。込んでしまったら後の行動に差し支える。どんな形であれ、食うのか先だ。 **************************************** カウンター前のガラスの中には確かに生しらすがあった。桜海老も横に鎮座している。他のサカナもどうなのか知りたくなったので、デラックス握りセットを注文した。桜海老は意外なぐらいその殻などが口内でひっかかってしまう。味は悪くないのだから惜しいものだ。生しらすはそんなことはなく、あくまで軟らかくあくまで繊細な感じだった。いくらおいしくても軍艦1つでは食べた感じはしない。目の前にある山を全部丼にぶっこんで、豪快に食いたいなと思う。むしろ穴子の軟らかさと大きさのほうが印象的だった。どっかで穴子の味でその店の技量がわかると聞いた気がするが、これは自分の中では合格だ。一方で、ややぬるいお茶は減点だとも考えた。 **************************************** 腹ごなしに魚市場の雰囲気を味わうこととする。最初の店で食してしまったことは後々、勇み足であったことがわかった。実際、生しらすを扱う店は他にもたくさんあったし、価格を考えたらもっとオトクなセットもあったようだ。だが、どこでも「生しらす丼」なるメニューは見られなかった。ここはマグロが有名とは思わなかったが、結構マグロのカマをみかける。これ見よがしに天日にさらしたカマは明確に脂が差していた。 「あのな、J島ではマグロの試食している店があるんだけど、店の前に七輪をおいていてすぐ焼いてくれるんだ ここではないけど残念だな」 「あのカマ、めっちゃうまそうや。たぶんこいつは、食したらサカナでなく肉の味がするに違いないっすね」 まったく同感だ。目の前でオバちゃんが、さばいた太刀魚をタレにつけて天日にさらす作業を気際よくやっている。 「この太刀魚とってもおいしいよ」 「あんまり食べることないなぁ 太刀魚の時期が今頃っていうのも知らないからね」 「今は油が乗っているよ 昨日さらしたのが店の奥にあるよ」 「大体どうやって食べるのかな?」 「うちらなんかはフライにすることも多いね」 「太刀魚のフライ?いや〜食べたことないね どんなものなんだろ」 「おにいさん どこから来たの?」 「東京なんだけどね、太刀魚をそのままの大きさで扱っている店がたぶんないだろうな」 こういった店の人との会話は楽しいものだ。特に知らない土地ならば、「旅の恥は掻き捨て」ということになって、普段以上の饒舌な自分を楽しめる。 「なぁ、Mさんに何か買っていこう」 「そうっすね。そういえば、今日は・・・」 「そっ、頼んできちゃった どうせやることもないし 今日の予定については何もいわなかったけどこうしておみやげ買っていけば問題ないっしょ?」 「・・・はいはい、じゃ おみやげは帰りがけにもう一度寄って買ったほうがいいっすね」 そう、この後は海に突き出たO崎の淡水池に行く予定があるんだ。時は1:30。天候といい、腹の具合といい、昼寝にはもってこいのシチュエーションだ。 |
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