「怪談(前編)」

 知り合いが個展を開くというので銀座に行くことになった。どうも敷居が高い、人が多い、アプローチが面倒と、いろいろな理由をつけて在京人でありながらもほとんど行ったことはない。だから、平日の銀座がけっこう閑散としていることも知らなかった。
昼時はどうかはしらないが、平日の銀座のちょっと路地裏は意外に人通りもなくて、静かなものだ。ちょいとヨーロッパの街のイメージに近いかもしれない。文化がある程度発展して、停滞するとどこも似たような感じになるのだろうか。表通りの車の往来の激しさとは一線を画している。そんな路地裏に画廊はあった。出展者はわずか数人ではあるが、開催期間はきっかり一週間とくれば平日にこない手はない。
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何で画廊の受付のバイトなんかしちゃったかな?
名も知れない画家の展示だったし、絶対ギャラリーなんてこないだろうからいいとは考えたけど、こんなに退屈だとさすがに嫌になってくる。わかっているからオーナーも私にまかせっきりにしたんだな。え〜、後3日もあるなんてサ・イ・ア・ク!おや、初めてのお客さんだ。まだ若いじゃん、フリーターかな?でもひとりっきりなんて出展者の親戚かなんかかしら。まー、どーでもいいけどぉ。
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 入口で入場料を払って周りを見渡すと、20帖ほどだろうか、中央にテーブルとイスが2脚ある以外はほとんど何もない。ギャラリーも和服を着た若い人が一人、こちらに背を向けてたたずんでいるだけだ。
「ま、こんなものだろう」
ひとりごちて端から順番に見ていく。技法とかまったくといっていいほど知らないが、自分なりの視点で見ていった。展示物が少ないからすぐに半分は見てしまった。気がつけば和服の女性の横まできてしまった。彼女は来たときからまったく変わらない位置にやっぱり立っていた。
「すいぶんこの作品に思い入れがあるんですね」
視線はあくまで作品のほうへ向けたまま、不躾に質問してみる。
「ええ」
彼女もまた、視線をはずさずにただ無感情に返答した。(改行)
その作品は江戸時代の風景画で、太鼓橋が中央に描かれている。往来の人々は何人かが少し遠めに描かれているが、作品の意図が読み取れないあいまいな作品に思えた。
「おや、この個展は確かに水彩の日本画がモチーフだけど、こんなに江戸時代に傾倒した作品は今までなかったな・・・・」
なんとなく小さな疑問が胸のどこかをかすめたようだが、すぐに忘れてしまった。
 さっき、その後ろ姿だけで即座に彼女は若いと判断したけれど、大学生だろうか、やっぱり若かった。濃紺にうかびあがる黄色のあやめ、それにつかず離れず蝶が舞う、シンプルに後ろで束ねた髪、すべてがその美しさに奉仕していた。でもどこかにぼんやりした雰囲気が漂っているのは何故なんだ?

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