| 「ナイトメア2(後編)」 |
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| 布団はいつの間にか盤石の重みでもって自分を抑えつけていた。 一枚しかないはずの掛け布団が、二枚・三枚と増えていく。実際には見えないのだが、着実に重さは増していく。一回大きく息を吸って思い切り布団を跳ね除けようとしたが、ちっとも力は入らず、もどかしさだけが残った。 「どうすりゃいいんだ」 こんな状態がずっと続いたら、こっちは間違いなくおかしくなってしまう。 「いつまでもそんな状態が続くものか、少なくとも朝になれば親が起こしに来るだろう」 とか、そんな冷静な判断はなかった。誰だってそうだろう。今、現実に身動きできない状態にあって、それがいつまで続くのかもわからないのだ。しかも、布団の重みは確実に増えている。 動けないだけでなく、いつかは体が重さに耐えられないようになるんではないか?その時にはいったい自分はどうなるのか?考えたくもない妄想が頭の中を駆け巡る・・・。 心臓がどきどきして、どうにもならない。誰かこの状態から起こしてくれ、頼む!もう一度、ゆっくり息を整えて今度は自分が転がるようにやってみた。全身がしびれるような感覚があって、少しだけ動けた。やった、なんとか動いた。今度はこっちの手を布団から出して・・・ ようやく布団から抜け出たが、あんまり体に力が入っていたせいか、全身汗まみれである。少し、体が冷えたその感覚をすがすがしく感じながら、なんとか体を起こしてみた。あいかわらず全身がけだるく、足元もおぼつかないがなんとか立てた。もちろん、妹はそのままで寝ている。何事もなかったように、いや、実際自分以外には何事もなかったのだ。 体を引きずるように、ふすまを開け、テレビにある居間に向かった。 「いったい、どうしたんだい」 テレビのついた明るい部屋で、両親はきょとんとしていた。 やれ、たすかった。ここはこんなに明るいし、両親もいる。 自分に何が起こったか、話したってどうにもならないなと思いながらも、動けなくて声も出なかったことを一気にしゃべった。 「夢をみたんだね」 夢?冗談ではない。あんなにリアルに体が動かない経験をした直後で、あれを夢で片づけられてはたまらない。どちらにしても、すぐに部屋へ戻る気などなく、しばらくこの部屋にいることを頼みこんだ。 「しょうがないね、でも少ししたら寝るんだよ」 深夜のテレビをボケーっと見つつ、結局30分もいただろうか。なんとなく気も落ち着いたので布団にもどることにした。部屋に入ると「一つ目」はそのままであったが、そっぽをむいているように見えた。 「お前もはやく寝ろよな」 そちらを向かずにひもを引いて暗くなった部屋で、でも周りが見えないように、布団の中にもぐりこんだ・・・。 **************************************** 「単なる金縛りよ」 20数年たって、霊感があるという女性にこともなげに言われた。別に金縛りなら、霊感の有無にかかわらず、体験することは多いようだ。 私には霊感はない・・・と信じている。ただ、心のどこかでそのような神秘的な事象に対する、一種の信仰のようなものは持っていると感じている。今でも暗闇はイヤだし、風による木々のささやきも気にかかる。しかし、問題はそんなところにはない。神秘的事象であろうが、なかろうが、あのとき感じた「自分の体を制御できない」という根源的な恐怖は事実である。例えそれが夢であろうとも、本人が恐れることに変わりはない。今でも、頻度は減ったが、題材を変えて似たような経験をしている。最近ではその度に「これは夢だ だからここで自分に起こったことは現実にはならない」といいきかせ、寝覚めの悪い朝を迎える程度で済むようになった。そして、肉体的な疲れからか、夢そのものを見る機会も減ったようだ。普通に考えれば、ナイトメアに侵される機会が減って万々歳ということになるが、夢を見る能力が減ったような、さびしい気分もある。 夢を見ている瞬間、そのリアルな世界を感じると人生を2倍生きているような、得な気分になれる。現実ではありえない、少なくとも現実の自分には起こり得ない、起こし得ないような世界で活き活きとして、喜んだり、恐れたりする自分がいる。だから今ではナイトメアですら望んでいる自分がある。 |
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作:shun | |
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