| 「ナイトメア2(前編)」 |
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| 子供の頃、あれはまだ実家を建て直す前のことである。私は3歳違いの妹と六畳間に布団を並べて、横になっていた。妹は布団に入るとほどなくすやすやと眠ってしまったようだ。部屋はただひとつ点いていた豆電球にぼんやりと照らされていた。横にはおやじのコートや背広の入ったたんす、足元には自分たちのシャツやズボンの入った背の低いたんす、真正面に配置された化粧台がある。親はふすま一枚隔てた隣の部屋に寝るようになっていた。典型的な日本家屋であり、部屋の仕切りはふすまと引き戸だけであった。 もっともそんなことを小学生の子供が意識などするわけもない。今日はなんとなく目が冴えて眠れないから、周りをゆっくり観察しただけのことだ。ひものぶらさがった照明の豆電球が「ちょっと黄色っぽいな」と気づいたのもそのためだった。別に眠らないと「明日ちゃんと起きれるか」とか、「親に怒られる」なんてことは考えなかった。ただ、「眠れないで横になっているのはヒマだな」と考えた程度である。自分の部屋でもあれば、こっそり本でも読めたのだが、ないものはしょうがない。 一度、懐中電灯で照らしながら読んでみたら、メチャクチャ目が疲れるのと、懐中電灯を持っているのがつらいので読書に集中できないのですぐやめた。諦めて横になり、またひもを見た。さっきからこちらをじっと見つめている「一つ目」は、少し大きくなったようだった。 「困ったな」 余計に目が冴えてきた。左手には窓があるのだが、木の葉の触れあう音もこころなしか大きく聞こえる。ようやく古典的な就寝法を試す気になった。 「ヒツジが一匹、ヒツジが二匹」というやつだ。こんなことをやるのはバカバカしいとは思いながら、マジメに数え始める。 「ヒツジが一匹、ヒツジが二匹・・・」 ところが、数えても数えてもキリがない。当たり前である、どこまで数えるという制限もないので、眠れないかぎり数えつづけるしかない。100匹ぐらいなら、そのまま何も考えないのだが、超えるとほんのちょっとだけ、「次の数はなんだっけ?」と意識してしまう。 「目を開けているからダメなんだ」 と思いつき、目をつぶってはみたものの、いつの間にか数えることが目的となって、「あいまいに数える間に眠ってしまう」というこの作戦はムダに終わった。 目を開いてみると、また「一つ目」は少し大きくなったように感じられた。どうにも我慢できない。トイレにでも行くかと思ったが、人気のない方の、通路の先を曲がった突き当りにある場所へ行くのはどうにも気分が悪い。電気のスイッチは扉を開けた先にあるし、開けた先にも個室への扉がある。かといって、こんなことで親のところに行くのも、変なプライドが許さない。 意識したせいだろうか、尿意をもよおしたことをきっかけに、意を決して身を起こそうとした。自分の体が自分のものでないような感覚、なんか変な感じだなとは思った、やけに体の動きが遅くて、スローモーションのようである。 間違っていた。少しも体は動いていないことに気がついた。両手両足だけでなく、首を曲げるのも難しいくらいである。指先は動くような感じがするが、いったいそれで何ができるであろう。ゆっくりとかろうじて妹の方を見たが、もちろん眠ったままである。 「おい、おきろよ」 「・・・」 「おきろよ おい ちょっと頼むよ」 どうにもおかしい、よっぽど深く眠っているのか、応えがない。 「ちょっと、おきろってば!」 全然、手ごたえなしである。何をどうわめいてもダメである。これだけ大きな声で叫んでいるのに、隣の部屋の両親も反応しない。こっちもいい加減呼びかけるのに疲れてしまった。 半ばあきらめて正面を見ると、「一つ目」はますますその力を強めていた。そのへばりついている虫まで見えるくらいに大きくなっている、というより、いるべき場所より放たれてこちらに近づいているように見えた。その姿に魅せられたように、視線をはずせない自分を感じた。 |
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作:shun | |
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